福岡ソフトバンクホークスの2025年度のチームスローガンは「PS!」
ではホークスの根本のスローガンは?
そう、「目指せ世界一」です。
メジャーリーグも含めてNo.1のチームになる為の運営を進めています。
その為の具体的な目標はリーグ10連覇。
巨人のV9を超えるだけの黄金チームを目指しています。
今回のテーマはそんなホークスの補強戦略についてです。
コスパよりも強さ
ホークスが強さを求めるチーム運営を行っていると分かる事例の1つが「ポスティングシステムを利用したメジャー移籍を認めていないこと」。
ポスティングシステムとはその名の通り入札制度。
所属球団が了承すれば、選手はMLB球団と自由に交渉できます。
そして、移籍が確定すると移籍先から移籍元に移籍金が支払われます。
現在NPBではホークスを除く11球団がポスティング移籍を認めています。
そのおおよその理由は「移籍金が貰えるから」。
※入団時にメジャー移籍を確約している場合もアリ。
海外FA権でメジャー移籍されると移籍金は1円も貰えないんです。
それなら選手が一番高く売れる時にメジャー移籍してもらった方がお得です。
2023年オフ、オリックスバファローズの山本由伸投手がロサンゼルスドジャースへ移籍した際のポスティング移籍金は約72億円。
まさにポスティングドリームです。
その反対にホークスはエース千賀滉大投手が2017年オフからポスティング移籍を希望していたにもかかわらずそれを認めず、結局2022年オフに千賀投手は海外FA権を行使しメジャー移籍を果たしました。
2018年から2022年までホークスはリーグ優勝1回、日本一3回。
エース千賀投手はその5年間全てで二桁勝利を挙げ、チームの勝利に大きく貢献しました。
ホークス球団としては千賀投手がメジャー移籍することによって得られる「莫大なお金」と引き換えに「強さ」を手に入れたことになります。
リーグ3連覇ができない
ソフトバンクホークスは「コスパ」よりも「強さ」を求める最たるチーム。
しかしながらリーグ10連覇どころかリーグ3連覇すら未だ実現できていません。
リーグ連覇の難易度の高さが窺えます。
ホークス最後のリーグ3連覇を遡ると1964~1966年。
これは南海ホークスの黄金時代です。
リーグ3連覇ができない理由は何なのか。
これは様々な理由が考えられます。
平等なドラフト、FAの人的補償制度、外国人枠の制限、支配下枠の制限…。
「金満球団=圧倒的な強さ」とならないような制度が充実しています。
それでも12球団随一の財力を何とか生かそうと「施設(ウエイトルーム、リハビリ用プール、サウナ等々)」や「人材(スカウト、栄養士、メンタルコーチ、データアナリスト、スキルコーチ等々)」に投資し、ホークスにしかできないやり方で戦力強化を図る姿勢が見て取れます。
その効果は着実に表れ、近年は他球団が羨ましがるぐらい分厚い選手層になりました。
あまりに良い選手が多すぎて、他球団へ選手が流れています。
それでも何かが足りない。
足りないからリーグ3連覇以上ができていません。
その足りないものに関して、私は1つ思うことがあります。
それは「フロントの油断」です。
詳しくは次の章で具体的に解説します。
リーグ優勝年の振り返り
ホークスがリーグ3連覇以上できない理由を私は「フロントの油断」と表現しました。
ここでは、その具体的な事例を解説します。
調査範囲は福岡ソフトバンクホークス初年度の2005年から2024年まで。
ホークスがリーグ優勝した年のざっくりとした振り返りと、その直後のオフシーズンの主な動きをまとめました。
2010年
2010年度は福岡ソフトバンクホークスになって以降初めてのリーグ優勝を達成。
シーズン終盤は西武ライオンズとの熱い首位争いがありました。
特に印象的だったのが馬原孝浩投手vs中島裕之選手の「魂の12球」。
馬原投手はフォークの連投、中島選手はそれを辛うじてバットに当てる。
その繰り返しで心臓が飛び出そうになったファンは多かったのではないでしょうか。
あの対決で中島選手を空振り三振に抑え同一カード3連勝を達成したホークスは、その勢いで優勝まで一気に駆け上がりました。
2010年オフはクライマックスシリーズで千葉ロッテマリーンズに敗戦した悔しさから大補強を決行。
主な補強選手で言うと、西武ライオンズの正捕手細川亨選手と横浜ベイスターズの主軸内川聖一選手。
反対に主力選手の流出は一切ありませんでした。
2011年
2011年度は圧倒的な強さでリーグ連覇。
2010年度は最後の最後までもつれ2位とのゲーム差0での優勝だったのに対し、2011年度は2位とのゲーム差が17.5もありました。
交流戦も含め全チームに勝ち越す完全優勝。
その優勝の原動力となったのがFAで加入した内川聖一選手でした。
打率.338でセパ両リーグでの首位打者に輝き、クライマックスシリーズではMVP。
これまでホークスにとって鬼門のポストシーズンだったのを、得意のポストシーズンへと変えてくれました。
中日ドラゴンズとの熱戦も制し日本一を達成。
そして、その年のオフは最悪の事態が待っていました。
ショートの絶対的レギュラー川﨑宗則選手と先発の柱の1人和田毅投手が海外FA権を行使しMLB挑戦。
さらに先発の柱の2人、杉内俊哉投手とD・J・ホールトン投手が巨人へ移籍。
ガッツリと替えの利かない戦力を削がれました。
また、替えの利かない存在だと思っていたのはファンだけだったようで、当時のフロントは杉内投手やホールトン投手に対し高い評価をしませんでした。
だから残留交渉がうまくまとまらず、移籍という結果になっています。
これだけの戦力流出を補強だけで何とかするのは無理な話。
FAで西武から帆足和幸投手、そして後にホークス史上最悪の助っ人投手と呼ばれるブラッド・ペニー投手を獲得し先発の穴埋めを期待しますがうまくいかず、2012年2013年度は少しばかりの低迷期を迎えます。
2014年
ホークスは2013年度オフに大補強を敢行。(ブライアン・ウルフ投手、ジェイソン・スタンリッジ投手、デニス・サファテ投手、李大浩選手、中田賢一投手、鶴岡慎也選手、岡島秀樹投手)
そして見事にリーグ優勝&日本一を果たします。
ただ、優勝できたのは補強した選手の存在だけではありませんでした。
川﨑宗則選手に代わってチームリーダーとなった松田宣浩選手の存在感。
さらに柳田悠岐選手、中村晃選手、今宮健太選手、森唯斗投手、武田翔太投手、千賀滉大投手といった若手選手の台頭。
若手・中堅・ベテラン、バランスの取れた見事なチームで優勝できました。
ここから再びホークスの黄金時代が始まったと言っても過言ではありません。
黄金時代の扉をこじ開けたのは松田宣浩選手。
シーズン最終戦までもつれ込み、この試合に勝てば優勝が決まるオリックスとの10.2決戦で見事なサヨナラタイムリー。
あそこで松田選手に一本が出ていなければ、オリックスの黄金時代がスタートしていたかもしれません。
あともう一人見逃せないのが大隣憲司投手。
シーズン終盤に彼がいなかったらおそらく優勝を逃していたでしょう。
大エースの投球内容でした。
2014年オフは主力選手の流出がなく、目立った補強といえば松坂大輔投手ぐらい。(実はしれっと獲得したリック・バンデンハーク投手の方が神補強)
新時代の幕開けを予感させるところで秋山幸二氏に代わり工藤公康氏が新監督に就任しました。
2015年
2015年度は圧倒的な強さでリーグ連覇&日本一連覇。
台頭した若手がさらに成長するシーズンとなりました。
優勝の原動力となったのは文句なしで柳田悠岐選手。
打率.363、本塁打34、盗塁32でトリプルスリーを達成。
常人ではあり得ない打球を何本も飛ばし、チームの優勝に大きく貢献しました。
2015年オフにはクリーンナップの一角で日本シリーズではMVPにも輝いた韓国の英雄、李大浩選手がメジャー挑戦。
4番or5番を担う選手が抜けたということで野手補強は必須かと思われましたが、目立った野手補強はせず。
ただ、投手では5年ぶりに和田毅投手がホークス復帰。
謎の剛腕(後のメジャーリーガー)ロベルト・スアレス投手も加入し投手力の強化を果たしました。
リーグ3連覇を目指した2016年度でしたが、大谷翔平選手という投打二刀流の怪物が覚醒し、最大11.5ゲーム差あったゲーム差をひっくり返されリーグ3連覇とはなりませんでした。
ホークスとしてはやはり李大浩選手の存在が大きかったです。
2017年
李大浩選手が抜けた穴は大きかったということで、2016年オフにロッテからキューバの至宝アルフレド・デスパイネ選手を獲得。
また、2017年シーズン途中には育成でリバン・モイネロ投手も獲得。(同じ時期に加入したキューバ選手は後に亡命)
彼らの活躍もありチームはリーグ優勝&日本一を果たします。
6シーズンぶりにホークス復帰を果たした川﨑宗則選手がチームを盛り上げたり、甲斐拓也選手や上林誠知選手、石川柊太投手が頭角を現したり、千賀滉大投手(最高勝率)、東浜巨投手(最多勝)、岩嵜翔投手(最優秀中継ぎ)が初のタイトルを獲得するなど見どころ満載の年でした。
ただ、その中で2017年度の主役と言えば守護神のデニス・サファテ投手しかいません。
彼の活躍は2017年に限った話ではありません。
ただ、2017年度は日本記録となる54セーブを挙げ、日本球界の歴史にその名を刻みました。
まさにキング・オブ・クローザーです。
2017年オフは特に目立った主力選手の流出がありませんでした。
補強という部分では、謎のイケメンジュリスベル・グラシアル選手を獲得。
彼は後にホークスファンを虜にします。
全く死角が無いと思われたホークスでしたが、2018年2019年と続けてシーズン成績は2位(ただどちらも日本一)。
主力選手の相次ぐ怪我と西武山賊打線の爆発が重なったことが主な要因です。
2020年
2018年、2019年とチームはリーグ優勝を逃していたものの、決して弱いチームではありませんでした。
なぜなら主力の流出が無かったからです。
怪我さえなければ優勝。
そう言われてきました。
ただ、この頃のホークスにはまた別の問題が浮かび上がっていました。
そう、主力の高齢化です。
主力選手が長く活躍すればするほど、人間なので年を取ります。
内川聖一選手38歳、松田宣浩選手37歳、デスパイネ選手34歳、グラシアル選手35歳、和田毅投手39歳。
まずは内川選手と松田選手の後釜を早急に確立しておきたいということで、ドラフトでは一三塁を守れる内野手を上位指名する動きが目立ちました。
ただ、ドラフト指名した内野手がなかなか主力まで駆け上がることができず。
そんな中で、2020年度に飛躍の年となったのが「打てる捕手」として期待されていた栗原陵矢選手。
オープン戦で結果が出なかった内川選手に代わり一塁手として開幕スタメンを勝ち取ると、その後外野手としても出場しユーティリティープレイヤーとして存在感を発揮しました。
彼のおかげで内川選手の後釜問題が解決し、その数年後には松田選手の後釜問題も解決することになります。
また栗原選手と同時期にブレイクを果たしたのが周東佑京選手。
13試合連続盗塁のプロ野球新記録を樹立するなど50盗塁で自身初の盗塁王。
超俊足だけでなく打撃面でも成長を示しました。
2020年度はこのような若手の台頭と、主力の安定感が際立ち、短縮シーズン(120試合)だったにもかかわらず2位と14.0ゲーム差をつけリーグ優勝、そして日本一を勝ち取りました。
その年のオフ。
目立った主力選手の流出はありませんでした。
強いて言うなら、左の先発の一角、マット・ムーア投手が1年でメジャーに復帰したことぐらいです。
そこの穴埋めをするべく、日本ハムを自由契約になったニック・マルティネス投手とMLBからコリン・レイ投手を獲得。
これで戦力は盤石かと思われました。
ただその後、2021~2023年にかけて3年連続で優勝できず。
主力選手の高齢化と怪我&不調の多さ、そしてオリックスに現れた山本由伸投手&吉田正尚選手という怪物の存在が、ホークスにとっては全て悪い方向に働きました。
2024年
一度壊れたチームを立て直すのは大変です。
ホークスでも4年かかりました。
エース千賀滉大投手のメジャー移籍に伴い、先発の核となる存在が必要ということで有原航平投手を獲得。
外国人野手をたくさん獲って誰もハマらず、それなら守りを盤石にしようとロッテからロベルト・オスナ投手を獲得。
打線の核となる存在が必要ということで日本を代表する打撃職人、近藤健介選手を獲得。
右の大砲問題解決のため、いろいろあった日本を代表するホームランアーチスト、山川穂高選手を獲得。
これらの他球団で主力を張っていた選手の加入がホークスに大きな力をもたらしました。
補強組と生え抜き組がうまく調和して、2024年度は2020年度以来4年ぶりのリーグ優勝。
投打共に隙がありませんでした。(ただ日本一はならず)
強いて隙と言えるのは9回を務めた不調のオスナ投手ぐらいです。
一度戦力外を経験し再びNPBの舞台に戻ってきた藤井皓哉投手、若手時代は器用さ故にもがき苦しんだものの今やブルペンに欠かせない松本裕樹投手、制球難から克服しポテンシャルを解放した杉山一樹投手。
中継ぎ一つとってもこれだけのドラマがあります。
モイネロ投手と大津亮介投手の先発転向という倉野信次投手コーチの英断も光りました。
そんな2024年度オフ。
主力選手に大きな動きがありました。
一番大きな動きが甲斐拓也選手の巨人移籍。
2017年以降、絶対的正捕手としてグラウンドに立ち続けた「ホークスの心臓」とも言える選手が流出してしまいました。
しかも次の正捕手が定まっていない状況で。
ホークスフロントが甲斐選手に提示した契約内容は推定4年10億円プラス出来高。
巨人フロントが甲斐選手に提示した契約内容は推定5年総額15億円。
これは移籍されても仕方ありません。
ホークスフロントは甲斐選手のことを替えの利かない存在だとは思っていなかったようです。
逆に目立った補強で言えば、上沢直之投手の獲得がありました。
メジャー挑戦する前まで日本ハムでエースを張っていただけに期待は大きくなります。
ただ一つ気になるのがNPB最強クローザー、ライデル・マルティネス投手の獲得を見送ったこと。
マルティネス投手の獲得には金銭面&外国人枠&複数年契約を含め様々なリスクが伴います。
ただそれを差し引いても、「強さ」を追い求めるのであれば無くてはならないピースだったと個人的には思います。
妥協は負けに繋がる
ホークスの優勝年とその後のオフの動きをざっくり振り返ってみましたがいかがだったでしょうか。
個人的にこの流れを見て思ったのが、「現状維持は退化」ということです。
毎年毎年選手が入れ替わり、時には大谷翔平選手、山本由伸投手、田中将大投手、ダルビッシュ有投手のような怪物選手も現れる。
そんな中で、リーグ10連覇を達成するのは並大抵のチーム運営じゃ達成できません。
せいぜい2連覇までです。
シーズン開幕前までに120%~150%は優勝できる戦力を整え、何かとんでもない事態が起きたとしても優勝できる。
それぐらいの余裕が欲しいところです。
妥協は許されません。
ホークスというチームは優勝できない間はこれでもかと補強を行うものの、いざ優勝してしまうとホッとしてしまうのか補強の手を緩める傾向があります。
10連覇したいならその手を止めてはなりません。
補強も育成も100%。
そうすることでようやく3連覇4連覇の可能性が生まれます。
巨人のV9を超えるV10は正直、王貞治選手の868本塁打やイチロー選手の4367安打と同等のアンタッチャブルレコード。
どんなにフロントが戦力強化に努めたところで、最後は運に左右されます。
怪我&不調もドラフトのくじ引きも怪物選手の出現も全てが運。
それでもロマンを捨ててはなりません。
福岡ソフトバンクホークスなら、いつの日か必ず達成してくれるはずです。
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