8月。ペナントレースも終盤戦に突入し、優勝争いが白熱する一方で、もう一つの“サバイバル”も静かに、しかし確実に進行しています。そう、戦力外通告のカウントダウンです。
今回取り上げるのは、「このままでは厳しい」と見られている福岡ソフトバンクホークスの支配下選手たち。未来を切り開くための、ラスト2ヶ月に懸ける10名の選手を紹介しながら、それぞれの現状と今後を考察していきます。
「終わらせないために」。その一心で挑む彼らの9月に、私たちは何を見るのでしょうか——。
先月7月の考察はこちら。
牧原巧汰(捕手・23歳)
4月から構想外考察をスタートし今回が5回目ですが、その全てで名前が挙がっているのが牧原巧汰選手。
プロ5年目となり、正捕手甲斐選手がいなくなり、牧原選手からすれば大チャンスかつ背水の陣のシーズン。打撃でも守備でも何でもいいので目立てば使ってもらえる、そんな状況でした。
ただ現実はそう甘くなく、二軍で結果を残せず現在は三軍暮らしが続いてます。(たまに二軍でも起用してもらえるが育成選手のような起用頻度)
支配下捕手の中では高卒2年目藤田悠太郎選手の次に若く、まだ若手の立ち位置をキープ。そういった意味では、まだ構想外は早いと思われるかもしれません。ただチーム全体を見渡すとどうでしょうか。
いるんです、牧原選手よりも結果を残す若手のホープが。
その名は盛島稜大選手。高卒1年目から体はがっちりしていましたが、高卒3年目にしてより一層仕上がりました。
牧原選手がこれからシーズン終了までにやらなければならないことは二軍の正捕手争いに加わること。三軍で盛島選手や加藤選手と争っていても話になりません。
リード、ブロッキング、バッティング。特にバッティングで大アピール(例えば本塁打量産)すれば環境はガラッと変わりますし、ホークスを構想外となったとしても他球団が見ています。
村田賢一(投手・23歳)
ストレートの球威不足という課題を抱える村田投手ですが、7月29日にみずほPayPayドームで行われた二軍戦では146キロを計測。ストレートのスピードは向上しつつあります。ただ、防御率・WHIPともに目立った改善は見られず、中継ぎとして一軍争いに加わるにはもう一段階スピードを上げなければなりません。
また、スピードアップを目指すが故に、持ち味のコントロールがアバウトになりつつあるのも気になる部分。
「決め球」シンカーのキレは素晴らしいだけに、この球を最大限生かす投球スタイルを確立したいところです。これからの約2ヶ月で結果を残せなければ、2年での支配下解除の可能性も否定できません。
長谷川威展(投手・25歳)
トミージョン手術明けの長谷川投手は、今季中の復帰が絶望的な状況。昨季の澤柳亮太郎投手と同じです。戦力としては見ているものの、枠を空けておきたいということで、一旦育成契約にする選択肢は十分考えられます。もちろん長谷川投手の回復次第では、そのまま支配下選手として契約し続けるでしょう。
同じくトミージョン手術を受けた宇野真仁朗選手も、一時的に育成選手として再契約する可能性はゼロではありません。ただ彼の場合は高卒1年目の今季から同期の石見選手と共に二軍で頭角を現したトッププロスペクト(打率.391、OPS.819)。競技復帰したらすぐに二軍で起用し続けたいので、三軍二軍で結果を残し続けなくてもすぐに支配下登録されます。そうなると、育成選手にとってはモチベーションの低下に繋がります。つまり、宇野選手をシーズンオフに育成にするのは悪手です。競技復帰予定は4月の頭なので、それまでにフィジカルをさらに高めてもらいましょう。
又吉克樹(投手・34歳)
経験と実績は申し分ありませんが、今季は一軍登板ゼロ。二軍でも好不調の波が激しく、防御率3点台後半と安定感を欠きます。球威やキレの衰えも指摘されており、ベテランの去就としては最もシビアな判断が下される場面かもしれません。
ただ個人的にはまだまだやれる投手の1人だと思います。投げミスが少ない投手ですし、何よりタフであることが長いシーズンを戦う上で非常に頼もしいです。
先発に挑戦したり、曲げ球中心の投球スタイルに変更したりと、ベテランながら様々なことを試しながらのシーズン。残りの2ヶ月で来季に繋がる自信を掴めるかに注目です。
板東湧梧(投手・29歳)
一軍での登板は2年連続でゼロ(2024年、2025年)。一昨年までの立ち位置を取り戻せないまま終盤を迎えています。板東投手に求められるのは“出力UP”。これだけです。投球内容は良かったり悪かったりがありますが、根本的な部分が理由で一軍に上がれていません。
板東投手が今のスピードでできる最大限の投球を心掛けているのに対し、球団が求めているのは以前のように150キロ前後のストレートと落差の大きなフォークで三振を奪う姿。
こう考えると、板東投手はこのままホークスにいるよりも他球団へ移籍した方が幸せなのかもしれません。
武田翔太(投手・32歳)
高卒1年目から一軍で頭角を現し、そこから5年目までは順調すぎるくらいプロ野球選手としてのキャリアを歩んだ武田投手。ただ、その後はかなり伸び悩みました。
プロ6年目以降の武田投手といえば「良い時は良い、悪い時は悪い」です。球種が多彩かつ、唯一無二のドロップカーブがあり、それらがストライクゾーンに集まれば面白いようにアウトが取れます。ただ、突如制球を乱し自滅する場面が何度もあり、首脳陣からの信頼を掴めませんでした。
32歳までホークスに支配下選手として居続けられたのも、単なる実力ではありません。複数年契約があったからです(FA権取得前に将来を見越して球団側が武田投手に4年契約を打診)。その複数年契約も今年で終わります。
2024年度にトミージョン手術を受け、今年復帰登板を果たし、先日は二軍戦にも登板。普通なら少なくとももう1年は様子を見るでしょう。ただ、ホークスには伸び盛りの若手選手が数多くいることと、32歳という年齢を考えるともう時間はありません。
ここからの2ヶ月で何らかの結果が求められます。
廣瀨隆太(内野手・24歳)
廣瀨選手はまだプロ2年目。見切りをつけるのは早すぎると思われるかもしれません。ただ、高卒で入団したと仮定すれば6年目のシーズンなんです。このように即戦力として入団する大卒社卒選手には時間がありません。
廣瀨選手のストロングポイントは長打力。セカンドを守れるパワーヒッターとして大学時代は東京6大学野球で歴代4位の本塁打(20本)を放ちました。
そんな廣瀨選手ですが、今季は一軍で本塁打1本、二軍では250打席で本塁打0本と本来の打撃を見失っています。1年目の昨季に関しても一軍で2本、二軍で3本と突出した成績では無かったので、単なる不調というより「プロの壁」にぶつかっている印象です。
チームとしては廣瀨選手に一軍二軍共にかなりの打席数を投資してきました。期待が高い選手の一人です。ただ高卒1~2年目の活きの良い内野手(石見颯真、宇野真仁朗、中澤恒貴、佐倉俠史朗)に「期待の若手枠」がシフトしつつあるのも事実です。
先日はセーフティーバントを試みるなど何とかもがいて結果を残そうという姿勢は感じますが、廣瀨選手に求められているのはそこじゃありません。残りの2ヶ月。廣瀨選手らしさ全開の打撃で本塁打を量産できるかに注目です。
上茶谷大河(投手・28歳)
上茶谷投手は投球テンポの速さと多彩な球種で打者を翻弄する投球スタイルで先発中継ぎ両方こなせる為、便利屋として重宝する投手には間違いありません。
ただ、時折球が暴れて「無駄な四球」を出してしまうところがもったいない部分。これがストレートで150キロ台をバンバン投げる投手ならまだ許容できますが、上茶谷投手は140キロ台前半から中盤の投手。ホークスの右投手は150キロが一軍昇格の一つの目安ではあるので、球速が足りないならその他を完璧にしなければなりません。二軍で圧倒的な投球をして支配下登録を掴んだ川口冬弥投手でさえ、疲れが溜まって出力が低下するとすぐに二軍へ落とされました。
上茶谷投手の同世代は一軍の主戦力として活躍している選手ばかり。28歳はプロ野球の世界では若手ではありません。中堅、もう少しでベテランの域です。ここから圧倒的な投球を見せ、一軍の舞台に駆け上がれるかに注目です。
田浦文丸(投手・25歳)
今季開幕前はヘルナンデス投手の不調と長谷川投手の怪我が重なり、左の中継ぎにとってはこれ以上ない大チャンスでした。ただ、田浦投手はオープン戦で結果を残せず、結局左の中継ぎ枠は本来先発として調整していた松本晴投手が務めることに。
この時期を逃し、自身のコンディション不良もあり、田浦投手の立場はより一層危うくなっていきます。
3年目の大野稼頭央投手や4年目の木村大成投手、トレードでは大江竜聖投手、育成からは宮﨑颯投手。戦力は増えていき、遂にはヘルナンデス投手が本来の投球を取り戻しました。
正直、ここから巻き返すのは非常に難しいです。
ただ、まだ終わったわけではありません。田浦投手には魔球チェンジアップがあります。二軍で圧倒的な投球ができれば、来季も戦力としてみてもらえるはずです。
井上朋也(内野手・22歳)
“将来の主砲候補”と期待され、2020年ドラフト1位でホークスに入団した井上選手。ホークススカウトからすれば牧秀悟選手をスルーしてまで1位で指名した選手なだけに、何としても中心選手まで上り詰めてほしいと願っていることでしょう。ただ、現実はそううまくはいきません。二軍の中でも良かったり悪かったりを繰り返しながらで、圧倒的な数字は残せていません。
今季は外野手にも挑戦。起用の幅を増やし、先日は一軍の舞台でレフトでスタメン起用されました。
二軍で圧倒的な成績を残しているわけではないのに一軍で使って貰っている。これは非常にありがたいことです。井上選手からすれば与えられたチャンスを1つずつ確実にものにしていきたいところです。
井上選手は一軍の舞台で結果を残せるように頑張るだけですが、首脳陣やフロントは彼の今の姿から将来の姿をイメージしながら見ています。現有戦力や2025年ドラフト候補選手と比較して、それでも彼の力が将来のホークスに必要だという判断になれば来季も契約するでしょう。
あとがき:この2ヶ月に、未来が詰まっている。
誰が生き残り、誰が離れるのか。
ただ一つだけ確かなのは、「ラスト2ヶ月で未来は変わる」ということです。
構想外候補として名前が挙がる彼らにも、まだ“逆転の一打”や“圧巻の投球”で空気を変えるチャンスは残されています。
だからこそ、私たちは見逃せないのです。
“終わらせないために”。
彼らの戦いを目に焼き付けましょう!!!
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