福岡ソフトバンクホークスが誇る若き大砲候補、笹川吉康選手。
その名前がメディアやファンの間で語られるたび、「ロマン砲」という言葉が自然とついてきます。
ホークスが誇る大スター、柳田悠岐選手のかつての背番号「44」(ししまい)を背負っている立ち姿を見るとそう言われるのも仕方ありません。
しかし、プロの世界は決して甘くありません。未完の大器は「そのまま終わるのか」「化けるのか」の二択を迫られます。笹川選手と同様に長距離砲として大きな期待を懸けられていたリチャード選手は、ホークスで花開かないまま巨人へトレード移籍しました。
果たして、笹川吉康選手はNPBを代表する左のスラッガーに成長できるのでしょうか。本記事では、これまでの軌跡、現状の課題、そして未来への可能性について多角的に掘り下げていきます。
笹川吉康選手とは何者か
高校時代の怪物ぶり
笹川選手は横浜商業高校時代から注目されていた逸材です。
身長190cmを超える恵まれた体格、遠くに飛ばせる打球、外野からの強肩。
当時から「高校生離れしたパワー」と「伸びしろ」が評価され、2020年ドラフトでホークスから2位指名を受けました。
当時のスカウトのコメントも印象的でした。
「規格外」「夢の物件」「メジャーの原石」「柳田以上になる可能性は十分にある」──そういった評価が先行し、即戦力というよりも「未来の主砲候補」として期待されていたのです。
プロ入り後の成長曲線
プロ入り後はじっくり、それでも着実に成績を向上させてきました。
1年目(2021年)
- 二軍戦 打席数6/打率.167/本塁打0/OPS.333/盗塁0
- 度重なる怪我で二軍実戦を積めず、体力づくりに費やされたシーズンでした。
2年目(2022年)
- 二軍戦 打席数207/打率.195/本塁打4/OPS.600/盗塁2
- 打率こそ悪いものの本塁打を4本放ち長打力の片鱗を見せました。
3年目(2023年)
- 二軍戦 打席数246/打率.211/本塁打4/OPS.594/盗塁11
- 打撃面に変化は見られなかったものの、この年は盗塁数を大幅に伸ばしました。
4年目(2024年)
- 二軍戦 打席数464/打率.257/本塁打7/OPS.714/盗塁8
- 二軍レギュラーに定着し、一軍初出場&プロ初本塁打も達成しました。
5年目(2025年)
- 二軍戦 打席数231/打率.251/本塁打6/OPS.698/盗塁5(2025/7/5時点)
- 限られた一軍でのチャンスを活かせず、現在は二軍出場が続いています。
彼が「ロマン砲」と呼ばれる理由
規格外のフィジカル
笹川選手の最大の魅力は、やはりその身体能力にあります。
- 身長:194cm
- 体重:97kg
- 50m走:6秒前後
- 球速:140km/h(高校時代)
- スイングスピード:約185km/h
このスペックを持つ選手は、NPB全体を見ても稀です。
特に柳田選手を彷彿とさせるフルスイングは、まさにロマンの塊です。
覚醒していない
これだけの高い身体能力を持ちながら、未だ一軍の舞台で大活躍できていないという部分も「ロマン砲」と呼ばれる所以です。
「ロマン砲」という言葉には、「現時点では未完成」という意味が含まれています。ですが、そのロマンを追い続けることで、球団もファンも夢を見ることができます。
壁と向き合う ― 成功への鍵は「対応力」
一軍の壁
2024年度にようやく一軍デビューを果たした笹川選手ですが、現実は厳しいものでした。さらなるステップアップを期待された2025年度は春季キャンプ&オープン戦から目立った結果を残すことができず、シーズン開幕後も一軍の壁にぶつかっています。
では、なぜ壁にぶつかってしまったのでしょうか。
理由①:変化球対応力の弱さ
ストレートには滅法強い一方で、縦の変化球への対応が課題です。典型的なハイボールヒッターですが低めのボール球にも手を出す傾向があるので、低めは全て捨てるぐらいの覚悟が必要です。
理由②:三振率の高さ
1つ目の理由に付随する部分ではありますが、笹川選手は三振率が高いです。目指すべき存在である柳田悠岐選手は一軍通算三振率が20%。対する笹川選手の二軍通算三振率は25.5%、一軍通算三振率は26.3%(2025/7/5時点)。
強打者を目指す育成方針から常にフルスイングを心掛けているので、多少仕方ない部分はあります。三振の多さは強打者の証とも言うからです。師匠の柳田選手もプロ3年目までの一軍通算三振率は約28.0%でした。ただ、この三振率を改善したから今の柳田選手があるのも事実。バットに当たれば何かが起きます。
理由③:打球角度
笹川選手の打球は速いものの、打球角度がつかず野手の正面に飛ぶケースが多々あります。これも打撃技術と言ってしまえばそうなんですが、この角度が改善されればさらに本塁打が増えるでしょうし、率も残るようになるはずです。
技術的な進化が問われる
プロの世界で生き残るためには、「自分の形」にこだわりすぎてもいけません。
調子の波、相手の配球、コンディション──あらゆる要素に対応していく柔軟性が求められます。
現在の笹川選手に求められているのは、「ただ強く振る」から「どう打つか考える」への転換です。
技術と頭脳が融合したとき、真の意味でのスラッガーへと進化するでしょう。
近年の左打ちスラッガーのプロ1年目と比較
笹川選手が目指すべき選手は師匠の柳田選手であり、打者大谷選手であり、村上宗隆選手であり、佐藤輝明選手。
それでは彼らのプロ1年目の成績を振り返り、笹川選手と比較してみましょう。
柳田悠岐
ホークスのレジェンドである柳田悠岐選手と笹川選手を比較してみます。
項目 | 柳田悠岐選手 | 笹川吉康選手 |
---|---|---|
出身 | 広島経済大学 | 横浜商業高校 |
プロ入り | ドラフト2位(2010) | ドラフト2位(2020) |
一軍デビュー年齢 | 22歳(2011年) | 22歳(2024年) |
特徴 | Mr.フルスイング、変態打ち | フルスイング型、圧倒的なパワー |
大卒と高卒の違いはありますが、プロ入りのドラフト順位や一軍デビューの年齢など共通点に溢れていることが分かります。
ただ大きく異なるのが打撃成績。
柳田選手のプロ1年目(23)の二軍成績がこちら。
打席数290/打率.291/本塁打13/OPS.893/盗塁20
笹川選手が柳田選手を目指すのであれば、大卒1年目に相当する今季2025年度はこの数字に近しい結果を残さなければなりません。
そんな中で笹川選手のプロ5年目(23)のこれまでの二軍成績がこちら。
打席数231/打率.251/本塁打6/OPS.698/盗塁5(2025/7/5時点)
柳田選手は笹川選手と同じくらいの打席数で倍以上本塁打を放っています。
笹川選手はここから後半戦に向けてさらなる進化が求められます。
大谷翔平
比較するとは言いましたが、忘れていました。
大谷選手は誰とも比較できない選手でした。
高卒1年目から投手としては一軍戦13試合に登板(その内先発11試合)。
野手としては一軍戦77試合に出場し、204打席で本塁打3本。
ここから「大谷伝説」がスタートしたのでした。
村上宗隆
村上選手は高校時代の捕手から三塁手への本格的なコンバートをしたことで、高卒1年目はどんなに打っても守備のことを考えて一軍には上がりませんでした。
1年目の一軍出場は6試合だけです。
それでも数少ない一軍の試合でプロ初本塁打を放つんだからスターはやっぱり違いますね。しかもプロ初本塁打はプロ初打席ですよ。
そんな村上選手のプロ1年目(18)の二軍成績がこちら。
打席数427/打率.288/本塁打17/OPS.879/盗塁16
高卒1年目とは到底思えません。すでに完成されてます。
対する笹川選手のプロ1年目(18)の二軍成績は怪我も重なりこの数字です。
打席数6/打率.167/本塁打0/OPS.333/盗塁0
佐藤輝明
4球団競合の末に阪神に入団した佐藤輝明選手はプロ1年目(22)から一軍で24本塁打を放ちました。
まさに評判通りの怪物です。
そこから甲子園球場という本塁打の比較的出にくい球場を本拠地としながら、直近5年で20本塁打以上を4回も達成しています。
笹川選手としてはまだ佐藤選手と比較できる立場にありません。
ロマンを現実に ― スラッガーとしての未来像
5年後の理想像
すべてが順調に進めば、笹川選手は以下のような選手になっている可能性があります。
- 打率:.280
- 本塁打:30本前後
- 盗塁:30個以上
- OPS:.900超
- 四球率:10%以上
- 守備:平均以上
- ポジション:センター
この数字を実現できれば、「NPBを代表する左のスラッガー」と言って差し支えありません。
チームの中での役割
現在のホークスは、柳田選手の後継者を探しているところです。
候補はたくさんいますが、純粋な「長打型左打者」は決して多くありません。
アベレージ型から長打力を後付けしていく打者の方が多い印象です。(近藤健介選手、柳町達選手、山本恵大選手等々)
笹川選手が覚醒すれば、打線の軸となるだけでなく、「将来の4番候補」としても十分に期待できるでしょう。
最後に
笹川吉康選手には、誰もが羨む才能があります。
しかし、その才能を「開花させられるか」は、これからの努力次第です。
プロの世界においては、才能だけでは生き残れません。
それでも、彼が打席に立つたび、ファンは「何かが起こる」と期待しています。
「鷹のロマン砲」が現実のものとなる日は、きっと近いはず。
そしてそのとき、私たちはこう言うことでしょう。
「やっぱり笹川選手は、本物だった」と。
後付け ―厳しい外野手争い
笹川選手の覚醒には大いに期待したいところ。
ただホークスの選手層の厚さを考えると、彼の覚醒に長い時間をかけられないのも事実です。
笹川選手は今季2025年度がプロ5年目。即戦力として入団する大卒1年目と同じです。
これまでの4年間は結果というよりも「経験」や「成長」を重視していたのが、ここからはシビアに「結果」が求められます。
ここで言う結果は二軍での結果ではなく、「一軍での結果」。
つまり、周東選手や柳町選手のようにスタメンで出続けるか、緒方選手や佐藤直樹選手のように守備走塁スタメン代打どこでもいけるスーパーサブとして存在感を発揮するか。このどちらかで一軍の戦力として認められなければなりません。
トレードで同い年の秋広優人選手が加入し、秋広選手の方は既に一軍の方で3試合連続お立ち台に立つなど一定の結果は残しました。
さらに、昨年のレギュラー正木智也選手、昨年のスーパーサブ川村友斗選手、本職の捕手以外に一塁外野をこなすマグネット石塚綜一郎選手、二軍で彼の右に出る者はいない山本恵大選手、三軍四軍では敵なしの大泉周也選手、脳挫傷からの完全復活を目指す生海選手、ここ最近二軍で守備走塁打撃全ての面で存在感を放つ桑原秀侍選手、笹川選手と同様身体能力の高い重松凱人選手、長打力が魅力の漁府輝羽選手、積極的な打撃で2024年8月頃に二軍で存在感を示した佐藤航太選手、アグレッシブな野球をするシモン選手、天才的な打撃と俊足が持ち味の木下勇人選手、将来が末恐ろしい18歳のオスーナ選手。
このように外野手の人材は豊富です。
さらには体が万全の状態に戻れば 柳田悠岐選手と近藤健介選手はスタメンから外せません。
ここから笹川選手に限らず、ホークスの外野手が一歩抜け出すためにはどうしたらいいのでしょうか。
答えはシンプル。
日本代表に選ばれるくらい無双すればいいんです。
もしくは他球団に移籍すればいいんです。
これだけ激しい競争を戦った選手達なら他球団でも十分やっていけます。
もちろん笹川選手が他球団に行った方が良いと言っているわけではありませんよ。
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